会社譲渡とは?メリットやデメリットについて解説します。
会社譲渡にはどのような利点があるのでしょうか。日本の少子高齢化と生産年齢人口の減少は大きな社会問題であり世界からも注目を集めています。
2019年には出生数が90万人を下回ったことがニュースになるなど、人口減少は現在進行形であり、そのスピードは早まるばかりです。
企業は労働人口の不足に対して影響を受けており、働き方の変革を迫られています。とりわけ中小企業では人手不足からくる後継者の不在や事業承継に対する課題をM&Aや会社譲渡で解決するケースも増えてきています。
この記事では会社譲渡に関する基礎的な知識からメリット・デメリットまでを解説します。ぜひ自社のビジネスの参考にしてください。
会社譲渡とは
会社譲渡とは、会社が保有する株式を第三者に譲渡して会社の経営権を譲り渡すことを指します。
類似しているワードに「株式譲渡」があり、株式の譲渡をもって第三者に経営権を譲り渡すので会社譲渡と同義であります。
会社譲渡の意義
企業が自主的に会社譲渡を検討するケースには後継者問題の解決、事業の存続、既存従業員の雇用の確保、経営者利益の獲得などが挙げられます。
特に近年は人手不足から後継者が見つからず企業の存続に課題をもっている中小企業が増えています。
会社譲渡の注意点
会社譲渡を行う場合には、下記の4点がどの様に引き継がれるかの確認をしっかりおこないましょう。
注意点
- 代表者、経営者の処遇
- 従業員の処遇や雇用に関して
- 既存の取引先との関係
- 債権者に対する影響
②の従業員雇用や処遇に関しては、今までの会社よりも規模の大きい企業への雇用となるため基本的には待遇は良くなることが殆どです。
また専門性の高いスキルを保有している従業員も基本的には優遇されるケースが多く見受けられます。
会社譲渡の方法・種類
会社譲渡は、自社の保有している株式を第三者に譲り渡すことで会社の経営権、すなわち会社全体を譲渡することを指します。
株式譲渡の基本的な流れは下記の通りです。
・M&A仲介企業の選定~契約
・企業価値評価の算定(バリュエーション)
・譲受候補企業の募集~選定~決定
・会社譲渡の手続き
・会社譲渡の成立
・会社譲渡の公表
・引継ぎ~アフターマネジメント
まずは信頼できるM&Aの仲介企業、専門家やプロのアドバイザーを見つけることが必須です。
会社全体の譲渡になるので、プロにしっかりとリードしてもらう必要があります。また会社を譲渡する企業が決定して手続きが済んでも従業員がいなければ事業の安定は図れません。
会社譲渡を既存の従業員に開示することを「ディスクローズ」といいます。
会社譲渡ではこのディスクローズのタイミングやプロセスも重要であり、企業風土の違いによる離職を避けるためにも大切な項目です。
会社譲渡と事業譲渡の違い
会社譲渡と類似するワードには「事業譲渡」があります。
事業譲渡もM&Aにおいては頻出する手法です。
会社全体を譲渡する会社譲渡とは異なり、事業譲渡では企業が保有する一部の事業、もしくは全体の事業を譲り渡します。会社譲渡では会社の経営権が移動しますが、事業譲渡はあくまでも事業のみの移動に留まります。
企業における後継者不足や不採算事業の売却を検討する際に用いられるのが事業譲渡です。
会社譲渡のメリット・デメリット
会社譲渡におけるメリットとデメリットを売却側企業、買収側企業のそれぞれの視点でみてみましょう。
売り手側のメリット
売却する企業においては後継者を獲得し事業の承継が解決できるメリットを持ちます。
またそれに付随して既存の従業員の雇用や、事業ノウハウも同時に買い手側企業に移ります。
さらに売却益、譲渡益も発生し、経営者であれば売却することで創業者利益を獲得することも大きなメリットといえます。
売り手側のデメリット
バリュエーションが思い通りにいかなかったり財務上の不安があるままに会社の売却を検討しても、希望した通りの価格で売却がされるとは限りません。
最悪買い手がつかないままに終わるリスクも想定した方が良いでしょう。
買い手側のメリット
会社譲渡によって企業を買収する側のメリットとしては、経営リソースや専門的な技術やノウハウを短期で獲得でき合理的な経営成長を果たせるメリットがあります。
新規事業への参入を検討している企業であれば、自社にはない経営リソースやスキルを持ち合わせている既存企業の獲得はスピーディーで効率良く事業を多角化できます。
買い手側のデメリット
一方、買い手側企業のデメリットには会社譲渡後に「簿外債務」が発生するケースや雇用の契約や待遇が変わってしまうリスクが挙げられます。
これらのリスクを回避するためにはデューデリジェンスの徹底や、M&A仲介企業による安全な交渉としっかりとした契約締結を行うことが大切です。
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会社譲渡についてのQ&A
会社譲渡において気になるポイントや必要なポイントを説明します。
会社譲渡の費用はいくらくらいかかる?
株式譲渡を実施するにあたっては以下の項目で費用が掛かります。
仲介手数料
M&Aの仲介を専門に行う企業やアドバイザーに対する費用であり、全体の中でも占めるウェイトが多い。
着手金(50万~400万円)、中間報酬(20万~200万円)、デューデリジェンス費用(10万~100万円)、企業価値算定費用(30万~200万円)、成功報酬(取引額の1%~5%)などで料金が発生します。
税金(売却側企業)
会社譲渡における譲渡所得には、15.315%の所得税と5%の住民税が課税されます。株式譲渡における税金の算出式は下記の通りです。
譲渡所得 = 売却代金 − 取得費(株式の取得費用) − 譲渡費用(M&A仲介にかかった手数料など)
税金 = 譲渡所得 × 20.315%
譲渡所得とは
売却代金から株式の取得費(株式の取得でかかった費用)と譲渡費用(仲介会社やアドバイザーへの手数料)を引いた金額です。
買収費用(買取側企業)
買取側企業においては、買収する株式の対価として譲渡側の企業に対して買収費用を支払います。
買収費用は仲介企業によるデューデリジェンスや企業価値の算定を基準とし、時価純資産 + 営業権(3〜5年分)が相場とされています。
営業権とは、会社譲渡後に見込まれる営業利益を指し3年分〜5年分が妥当とされています。
株券発行費
売却側企業には、提訴で株券の発行を必要と定めている場合に、株券を発券するための費用がかかります。具体的な金額は発行する印刷所によって変わります。
会社譲渡の税金はどうなる?
会社譲渡においては株式の売却益に対して課税が発生し、個人と法人によって課税種別が異なります。
個人株主の場合
株式の売却益は譲渡所得となり、申告分離課税により所得税が課税されます。
売却益(譲渡所得)=譲渡金額-(株式取得費用-譲渡経費)
税金は株式を売った権利者個人の所得に対してのみかかり、会社に対して税金はかかりません。
所得税 | 15.315% |
住民税 | 20% |
法人株主の場合
株式の売却益について、総合課税方式により他の法人所得と同様に法人税が課税されます。
売却益(譲渡所得)=譲渡金額-(株式取得費用-譲渡経費)
法人税等 約40%(実効税率で課税)
会社譲渡において必要な書類
売却側企業、買収側企業共に必要な書類は以下の通りです。
・株式譲渡契約書(SPA)
・株主名義書換請求書
・株主名簿
・株主名簿記載事項証明書交付請求書
・株主名簿記載事項証明書
売却側企業(取締役会設置会社の場合)
・株式譲渡承認請求書
・取締役会招集通知
・取締役会議事録
・株式譲渡承認通知
売却側企業(取締役会非設置会社の場合)
・株式譲渡承認請求書
・株主総会招集に関する取締役の決定書
・株主総会招集通知
・株主総会議事録
・株式譲渡承認通知
・株式譲渡契約書
・株式名義書換請求書
・株式名簿
・株主名簿記載事項証明書交付請求書
・株主名簿記載事項証明書
・取締役の決定書
まとめ| 会社譲渡は後世に事業を残すための有効な手段
2060年には日本の人口は約4,000万人も減少すると推測されています。
少子高齢化による人不足の問題は国内の消費を鈍らせるだけでなく、市場の縮小も意味しています。
中小企業において事業を存続するのが非常に困難になっていると言わざるをえません。
会社譲渡やM&Aを有効に活用することは、後世に事業を残すための手段でもあります。